彼女の名前はミチシゲサユミという。サユミはこの春、大学を卒業したばかりであった。大学時代の不規則な生活スタイルが、卒業してもまだ残っていたようで、
今朝はそれで寝坊をしてしまった。
サユミがこれだけ急いでいるのには理由があった。彼女は苦労した末、ある高校の講師として採用されたのである。
今日は高校の入学式であると同時に、サユミにとっても初登校の日だった。
どれだけ遅い"ご出勤"でも、朝の八時には学校に到着していなければならない。ましてや初登校の講師が、初日から遅刻することなど許されない。そのことは
彼女も十分理解していた。理解しているはずだった。なのに…
「バカバカバカ…どうして今日に限って…」
サユミはアクセルを踏みながら、自分のミスを呪った。もっとも、嘆いてももう遅いのだが。