この学校は中高一貫校である。『中等部』…つまりは中学校から入学した生徒は―普通に勉強すれば―エスカレーター式に高校に進学することができる。
ところが、中にはこの中学校から他の高校を受験する生徒もいる。空いた新入生の枠を補うために入試が行われ、あまり多い人数ではないが、一定数の
生徒が『高等部』…つまりは高校からこの学校に通い始める。
アユミもその一人だった。倍率が七倍を超えるような、難関の入試を"いちかばちか"受験した彼女はワンチャンスを生かして、見事合格を射止めたのであった。
合格の決まった日、アユミは家族総出でお祝いしてもらった。好物の手羽先とスイカが振る舞われ、彼女は幸せの絶頂にいた。
「高校に入ったら、あんなこともしたい、こんなこともしたい…」
アユミは真面目な少女であった。高校に入った自分がしてみたいことのリストを律義に作り、机の一番上、鍵のついた引き出しの中にこっそりと入れた。
それは彼女だけが抱いている、新しい生活での夢であった。