注文を済ませるとミズキは腕時計を見た。彼女はここで人を待っていたのだ。しかし、約束の時間から十二分ほど過ぎている。
「また遅刻かぁ…」
ミズキは溜め息をついた。メールを送って急かそうかと思ったが、急かしても急かさなくても遅刻しているのは同じだと思い直して、彼女はそのプランを取り消した。
店の扉が開いた。息を切らしながら一人の少年が入って来た。彼は店の一番右のテーブルを見やる。ミズキの姿を認めると、手を出して『ゴメン』のポーズを取った。
「遅い」
ミズキがそう言うと、少年は赤い野球帽を取って頭を下げた。
「ごめんごめん…バスが遅くなっちゃって」
少年はミズキの前に座ると、チョコとコーンフレークの入ったクレープと、アイスミルクを注文した。
「この間も遅刻したのに…あの時は映画見れなかったし」
「ごめんなさい」
少年は本当に申し訳なさそうな顔でミズキを見る。ミズキは内心怒っていたのだが、彼の表情を見ると怒る気が失せてしまった。
それぐらい申し訳なさそうな顔だったのである。