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第9話 『新人たちの群像』

この街の駅前に、一軒の自動車販売店がある。人の出入りが激しい業種だが、今年はこの店に二人の新入社員が採用された。
「はぁ…覚えなきゃいけないことだらけでマジしんどいんだけど…」
ナカジマサキは新人研修の合間に、そう言って一人溜め息をついていた。覚悟はしていたが、新人研修で覚えさせられる事柄の多さは彼女の想像を超えていた。
頭をフル回転させても覚えられそうもないから、彼女は入社早々憂鬱な気分になった。
「ナカジマさん、大丈夫?」
後ろから声がした。サキが振り返るとそこにはもう一人の新入社員、キタハラサヤカが立っていた。
「覚えること多くて大変だね…サヤカはどう?」
「全然。言われてることの半分も分かってないかも」
二人はそう言って、お互いに苦笑するのであった。どうやら、サキが感じている気持ちと同じようなものを、サヤカも感じているようだった。