>>81
 年齢を重ねると、1人で墓場まで持って行かねばならない秘密というものをたくさん背負わされるものだ。よかれと思ってつく嘘も沈殿する。俺はまた秘密と嘘を背負うことになるのかも知れない、とトンは思う。

 一日がかりの長い話になった。ナギの精通が予想よりずっと早く訪れたことで時期が早まったが、いつかは話しておかなくてはならない事だった。
 アニの背負った使命について、集落のことについて、乳牛の意味について、ナギのことについて、アニと話し合った。話し合ったと言うよりもアニに語り聞かせたというべきだろうか。

(その1)アニの使命

 「何度も聞かされた話だろうが・・」
とトンは話し出した。
 アニは風神の「直系」の御子である。アニは風神のあばら骨から作られた子である。我々人間の血統図でいう「直系」では無く、交接の無い血量100%という意味での直系である。つまりアニは風神の生まれ変わりと言って良い。
 風神は、もう150年も前にこの集落から天上に召されて神になった方で、人間として地上におられた頃は、アニのように美しく天才的な馬乗りであった。

 風神は地上におられた頃にたくさんの子を作られた。今の集落のほとんどの者は風神の血をひいていると言って良い。つまりわが集落の優秀さは、風神の血に依存している。しかし時代を経れば当然風神の血量は薄まってしまう。
 ちなみにトンは風神の4代目と3代目の間の子いわゆる4×3=(1/16+1/8=18.75%)の奇跡の血量と言われる者だが、この奇跡の血量の出現はトンの世代で最後を迎えている。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/奇跡の血量