「はむっ、はむっ、もぐっ。うっま」
おやつも食べていたはずなのに、次々放り込まれるおかず達。この子の胃袋はブラックホールか何かなんかな。
車内販売で買ったお弁当。私は『鶏めし弁当』で、美兎ちゃんは『だるま弁当』。何やら近くの名物らしい。
「ちゃんといっぱい噛んで飲み込まなあかんよ」
「ほーい、りょーかいいたしましたー」
食を進めながら彼女の細い腕に目を向ける。こんなに沢山食べるのに、なんで体はガリガリなんやろな。
私なんかすぐお腹いっぱいになるのに、食べた分だけ体重が増える。だからなかなか思い切り食べられないのに。
「痩せの大食いってほんまなんやな……羨まし」
「ちょっと楓ちゃん、それは半分悪口なんじゃないですか」
そんなことなーいよ、と猫撫で声で言いながら、お弁当に入っていた栗の甘露煮を彼女の口元へと近付ける。
はむ、もぐもぐ。でへへ、あっまぁ。むくれていた顔がぱあっと明るくなっていく。ああええな、この餌付け感。
「私もうお腹いっぱいやよ。美兎ちゃん半分食べて」
「ほいほーい、いただきまーす」
結局彼女はお弁当一つ半をノンストップで平らげた。お茶を渡せば両手で掴んでぐびぐびと勢いよく飲んでいく。
「やっぱりブラックホールや。けど飲み方はまんま子供なんやな……」
「んくっ、んくっ、ぷは。え、なんて」
「美兎ちゃんは本当によく食べますね、って」
「んふー、せっかくのご当地名物ですからね。目一杯味わっておかないと」
得意げな顔の奥、窓の外を見れば畑と山と小さな家くらいしか見えなくて。改めて遠くまで来たんだなと実感する。
田舎の風景と美兎ちゃんを同時に見るのなんて初めてだったから、何だかむずむずして落ち着かなかった。
「ん、どったの楓ちゃん」
「え? えーっ、と。あ、ほら、窓の外見てみ。山のてっぺんが白くなってる」
「うおぉすげえ、あれ雪なんですかね? やっばぁ、冬に入って初めて見たわ」
窓に手を押し当てて喜ぶ兎さん。ああ、本当にこの子は自分の心に正直で、素直で、純心で、可愛い。
そんなことを考えていたら。私の手が彼女の後頭部へ勝手に動いていって、愛でるようになでなでし始めた。
「わ、なんすか楓ちゃーん。人前でこういうことするのはどうなんですかぁ」
「っ……ほーら、そこ。窓に指紋ついとるよ」
「えぁ!? あっマジだやべえ! 指紋認証されてしまうわこれは。えへへ」
ちょっとしたことで大騒ぎ。相変わらず、一緒にいて全然飽きないよね美兎ちゃんって。

「すぅ……すぅ……」
ひとしきり騒いだ後。持久力のない兎さんはバッテリーが切れたように『こてん』と寝落ちしてしまった。
今日は隣同士の席で良かった。私の肩を枕に差し出すことができたから。膝には私の上着を乗せておこう。

外を見れば、田んぼや畑だらけの平地。それに遠くに山が延々と続いていて、綺麗だけどちょっと退屈な光景。
仕方ないな、到着するまではこの可愛い寝顔でも拝みながら過ごそうかね。んふふ。