本日の任務はあの女が風呂を済ませている間に下着を拝借するというものです。
思い出すのは、晩ご飯を食べながら繰り広げられた会話の内容。
「だから、ムネなんか大きくとも邪魔なだけやって……」
「ふざけんなよ、そんなの『持つ者の理論』じゃないですか。持たざる者はどうしろと」
「いやほんまやって。肩は凝るし、走ったり跳んだりするとちぎれそうなほど痛いし」
「そのままちぎれたら、わたくせの胸に付けるのに」
「やめとけ。あと地味に蒸れるんよ。今日暑かったやろ、もう気持ち悪くて」
「……ほーん。大変ですね」
はいはい、こんなの聞いたらね。蒸れたにおいを嗅ぐしかないでしょう。
できれば直接味わいたいものだけど、あの女がそう簡単に弱点を晒すとは思えない。
風呂上がりですら脇を舐めたら散々に怒られたことがあった。だから今では月イチくらいの頻度に抑えている。
ともあれ、今回のところは布に染み付いた香りでどうにか我慢してやろうということだ。
これなら誰にも迷惑はかからず私が痛い思いをすることもない。さすがわたくし天才ですね。
……隠密行動をとっている時ほど『小柄でよかった』と思うことはない。
ドアを必要最低限だけ開け、横になって体を薄くして侵入したのち、洗濯機から手早くブツの回収に成功した。
シャワーを使用している最中を狙ったから、きっと移動の音も聞き取られなかったはずだ。
こうして完全犯罪を果たした私の手には上下お揃いの脱ぎたて下着が握られていた。下は、ほら、ついでで。
まずは内側の手触りを確認。
なんだ、普通にさらさらじゃないか。でも完全には冷えきっていないようで、この後が楽しみだ。
地味にショックだったのはパットが一枚入っていたこと。きっと空間の微調整や防御壁の役割なんだろうけど。
よし、触診終了。時間もないことだし早速いただきますか。
当初は片方ずつの鼻で楽しもうと思ったが、あまりに大きすぎるので片胸分を両鼻で吸うマスクスタイルでGO。
すーっ。すうぅーっ。
「ふ、ふへっ、ふひひひひっ」
やっべぇ。これマジやっべえ。いつもの芳しい楓ちゃんのにおいを邪魔するかのように濃いにおいが鼻をついた。
それを例えるなら、爪の内側とか足の裏をマイルドにした感じの甘酸っぱいにおい、あたりが妥当だろうか。
いや別に嫌な臭いって訳じゃなくて、むしろ、そう、あれだ。癖になる匂いというか。
あいだあいだに楓ちゃんの良い香りが感じられるのも、またお腹にクるものがあるというか。
においの系統は違うけれども、彼女の大事な下腹部をイメージしてしまう。昨晩の行為を思い出してしまう。
気が付けば下着を持っていない方の手がお腹の下へ伸びていて。脚で挟みながら指を何度も往復させていた。
やべえ。やべえ。楓ちゃん、やっぱりおっぱいはとんでもない魅力を持っているじゃないですか。
持たざる者たる私はせめて幸せだけでも分けてもらうべく、何度も彼女の名前を呟きながら慰め続けたのだった。
「楓ちゃん、かえ、ちゃっ、イっ、――――っ!」
最高のにおいに包まれて登り詰めるのはこの上ない多幸感で、一回だけでは満足できなかった。
なあに、手元には下半身用の下着もある。これを使えばさらに臨場感のある幸せを味わえるのは間違いないはずだ。
「み、と……ちゃ、なに、して」
誤算。時間の感覚を完全に飛ばして行為にふけっていたのは失敗だった。
その瞬間の私。片手は股の間、もう片方はパンツを鼻に寄せ、さらに頭からブラジャーをかぶった姿。
逃げ場も言い訳も存在しない。悲しいことに、一気に冷えた頭がそう弾き出してしまっていた。
「……ふ、ふふ、ふふ。そんなに溜まってたんやね。ええよ、お仕置きのついでに解消したるよ」
その夜のことはあまり覚えていない。ただ、この行為は半年に一度くらいにした方が良いな、と今では思っている。