>>571
坊主が朝起きると窓の外にサメがいる
これはどうしたことかと驚くとサメはこういった
「坊さん、外は黄砂でいっぱいだ。これじゃとても泳げやしねえ」
坊さんはサメの不満をきくとちょっと庭に出てつくしを採って戻ってきてサメにいた
「これはつくしだ。つくしは春の初めごろ、わずかな温かさを感じて芽をだす。これをお前にくれてやろう」
サメはなんだかしらねえが貰えるものは食っておこうとしたがそこでふと、
(まてよ、坊さんのいうことだ。何か深い意味があるにちげえねえ)と思い止まった
(きっとこうだ。つくしは寒さの中にあるほんの小さな温かさでも絶好の機会と捉えて芽を出す。だから俺にも、黄砂にめげてばかりいずに、泳ぐ機会を探してみろと示してやがるんだ)
サメは「坊さん、そのつくしの心はたしかに貰ったよ」そういうと背を向けて黄砂の中を泳いでいった。こうして砂の中を泳ぐサメが誕生した
坊さんはそれを見送ってからほっと息を吐くと、
「やれやれ、食われるかと思って代わりの食い物を探したがここはあいにく寺で肉はなく、せめて旬のものをとつくしを摘んでもっていったが、それを見ただけで満足するとは。なんと殊勝なサメだろう。
肉ばかり食う動物であれなのだから、私も見習って、あのサメの心に深くくひれふさねばならんなあ。ふかひれだけに」