淋しいんで、苦手な方はスルーでお願いします。
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届かないと知りながら、それでも歌い続ける夜があるように。
届かないと分かっていながら、祈りにも似た気持ち、で。
十一月の屋上は夜更けなこともあってすっかり冷え込んでいた。
フード付きのパーカーは黒い色をしていて、きっと闇に溶け込んでいる。
月はでかくて青い色をしていた。冷たい月。静かで威圧的で、やわらかそう
な光を放つくせに星々の色を飲み込んで消してしまうような。
「帰りますよーっ」
震えたキュウの声は背中に投げつけられたけど、うん、と頷いたままおれは
動かなかった。耳が冷たい。寒くて感覚を失くしはじめる指先と。
「長い便所だと思って捜しにくりゃ、こんなとこいて。あんた、ボーカリスト
なんだからね、風邪引いて喉痛めたとか言ったらぶっ飛ばすよ?」
「も、もう、少し、したら」
飲み屋の集まるビルの屋上。
まさか鍵が空いてるなんて思わなかった、鉄柵は胸より少し高い位置にあっ
て、触れると驚くほど冷えていた。錆の匂いが手につく。
「みんなまだ飲んでるから、行こうって」
「行く、」
「じゃあ、ほら」
「後、後で、すぐ、行くから」
「なにしてんの、こんなとこで」
月。
おれはそっと指差す。
月、見てる。
青い月。
空の色を溶かしてにじませて、薄い雲をくっきりと暴いてしまっている、明
るい月。
「月見は九月でしょ」
ため息混じりにキュウが言って、でもおれが振り返らないのを察してため息
を吐いた。嫌味みたいに、くっきりしたそれ。
「じゃあ後でまた迎えに来るから。そんときはちゃんと帰るよ?」
「う、うん」