ふと考え込んでしまう瞬間は誰にでも訪れるものである。2017年師走、コラムニスト・石原壮一郎氏の場合──。
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こんなにお世話になっているのに、こんなに大好きなのに、なぜそういう名前なのか気にしたことはありませんでした。たいへん失礼で、たいへん情けない話です。
我々男性の憧れをかき立ててやまないおっぱいは、なぜ「おっぱい」と言うのか。
あの美しくやさしい膨らみは、どのぐらい昔に、誰が何を思って「おっぱい」と名付けたのか。
人間も土地も食べ物も芸術作品も、そしておっぱいも、深く知れば知るほど、さらに好きになれるし、さらにその魅力を味わえます。
今さらで本当に申し訳ない限りですが、あらためて敬意と感謝を込めつつ、おっぱいの語源を探る旅に出発するとしましょう。
あらゆる言葉の意味・語源・由来が載っているwebサイト「語源由来辞典」では、「諸説ある」と前置きしつつ、次の4つの説が紹介されています。
1.「ををうまい(おおうまい)」が約まったとする説。
2.「お腹一杯」の「いっぱい」が転じたとする説。
3.中国春秋時代の学者王牌(おうぱい)が転じたとする説。
4.古代朝鮮語で「吸うもの」を意味する「パイ」からとする説。
もっとも有力とされているのは1で、幕末の1859〜60年に書かれた『於路加於比(おろかおい)』という文献に、おっぱいの意味が書かれているとか。
さらに調べてみると、この本は笠亭仙果こと柳亭種秀によって書かれた随筆で、「乳汁をおつぱいとは、ををうまいの約(つづま)りたる語なるべく」という記述があるそうです。
うっかりしていましたが、おっぱいはあのふくらみのことだけでなく、母乳を指すこともありますね。
ここで「ををうまい」と言っているのは、乳児なのか、あるいは大人なのか、乳児がおいしそうに飲んでいる様子を大人が代弁しているのか。謎は残ります。
そこはまあいいとして、仮に1が正しいとすると、おっぱいの歴史は意外に新しいものでした。文明開化によってもたらされた日本の夜明けは、おっぱいの夜明けでもあったわけです。
2以下の説の可能性もありますけど、いずれにせよ、おっぱいという言葉の響きと字面は、あの膨らみの本質をあまりにも的確に表現していると言えるでしょう。
男女問わず、たとえ大勢の人の前でも、さほど抵抗なく口にできるところも(いや、そういう意味じゃなくて)、おっぱいという言葉の素晴らしさであり偉大さです。
ここで話を終えたいところですが、語源を探る旅はそんなに簡単なものではありません。まだまだほかにも、ネット上にはたくさんの説がふわふわと存在してくれています。
「形が『杯(はい)』に似ていることから、それに丁寧語の『お』をつけた」
「乳児が乳房を吸う音が『おっぱい』と聞こえるから」
「乳児の喃語(なんご。言葉を獲得する以前に発する声)の『おー』『うー』『ぱー』が合体した」
「すっぱいと言ったときの口の形が、おっぱいを吸うときの形に似ているから」
「おっと ぱふっと いい気持ち」
などなど。
ま、最後のふたつは完全にネタでしょうけど、これはこれで夢とロマンを感じさせてくれる味わい深い説です。
男性はいくつになっても、おっぱいに振り回されてしまう生き物。
その正体にせよ語源にせよ、謎を解き明かすことは永遠にできない運命なのかもしれません。
はっきりわかっているのは、おっぱいという言葉を呟くだけで、おっぱいを思い浮かべるだけで、たちまち幸せになれるということ。本当にありがたいことです。
もし目の当たりにする機会があったら、心の中で「ををうまい! ををうまい!」と叫べば、時空を超えた深淵に触れた気持ちになって、魅力をさらにとことん堪能できるはず。
実際に口に出したとしても、それはそれできっと喜んでもらえるでしょう。
以下ソース
http://www.news-postseven.com/archives/20171202_634371.html
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