2020年8月×日──東京五輪の陸上競技会場・オリンピックスタジアム(新国立競技場)は、約7万人の観客の熱気に包まれていた。トラックでは注目競技の決勝がいままさに始まろうとしている。
その時──「ドン!」と下から突き上げられるような衝撃がスタジアムを襲った。誰もが姿勢を保てず、シートや手すりに掴まろうとするが、激しい縦揺れでままならない。
揺れが収まると、観客たちはパニック状態となり、スタジアムの外を目指して出口へ一斉に押し寄せた。平和の祭典であるはずの五輪会場が、阿鼻叫喚の“地獄絵図”に変わった──。
もしも東京五輪の開催中に「首都直下型地震」が起こったら、甚大な被害を招きかねない。政府の中央防災会議によれば、M7.3クラスの都心南部直下地震が起こった場合、首都圏の死者数は最大で2万3000人にのぼると想定されている。しかし、それはあくまでも普段の東京を前提に導き出された被害推計である。東京女子大学の広瀬弘忠・名誉教授(災害リスク学)が警告する。
「東京で直下型地震が起きれば平時でさえ甚大な被害を及ぼしますが、全世界の選手団が約1万人、1日で最大92万人もの観客が集まる五輪期間中は、なおさら被害が拡大すると想定しなければなりません」
政府の地震調査研究推進本部では首都直下地震について「今後30年以内に70%の確率で起こる」と分析している。しかしその一方で「五輪開催時に大地震が発生した場合」の被害については全くシミュレーションしていない。
世界中から観客が訪れ、各国の代表選手を迎えるビッグイベントの開催国である以上、“最悪の事態”を想定し、対策を練る必要はないのだろうか。
冒頭のシーンのように大地震が発生すれば、多くの人がパニックに陥ることは避けられない。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が語る。
「会場は観客の密度が高いうえ、地震に不慣れな海外からの観客も多い。卓球会場の東京体育館、柔道会場の日本武道館など、築年数が経った屋内型の会場では、天井材や照明器具などの落下物も発生するでしょう。
そうなれば、外に出て危険を回避したいという心理が働くのは当然です。恐怖と不安を感じた外国人を含む大勢が一斉に出口へ殺到し、人々が将棋倒しになって死者が出る恐れがある。死者11人、負傷者247人を出した、2001年の『明石花火大会歩道橋事故』とは群衆規模が違ううえ、屋内競技場は出口が限られるため、圧死のリスクはさらに高くなる」
そうしたパニックを防ぐには、適切な避難行動を指示するアナウンスが重要だ。しかし、会場に配備されるスタッフの多くは“プロ”ではなく、組織委員会が集めた「ボランティア」だ。
「緊急時の避難誘導を行なうには、専門知識はもちろん、会場の構造を熟知し、何度も訓練を受けることが必要です。状況に応じた判断も求められ、数万人規模となると防災の専門家ですら対処が難しい。学生や一般人で構成されたボランティアが、適切に観客を避難誘導できるとは思えません」(前出・広瀬教授)
約11万人のボランティアスタッフのうち、外国語対応ができる人数はさらに限られる。五輪観客の2〜3割が外国人と見積もられる中、緊急時の対応が行き届くかは疑問である。
以下ソース
https://www.news-postseven.com/archives/20190807_1426950.html
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