「日本の養豚業界の破滅だ」――。

全国有数の養豚県選出の自民議員は、猛威を振るう豚コレラに対して政府が今月、家畜豚へのワクチン接種に踏み切ったことをこう嘆いた。

ワクチン接種は、日本産の豚肉の輸出規制を招くなど悪影響が計り知れない。一方、いまだワクチンの開発されていない「アフリカ豚コレラ」も朝鮮半島まで感染拡大しており、日本にも脅威が迫っている。

豚コレラは昨年9月、岐阜県において国内で26年ぶりに発生して以降、愛知や三重、福井、長野、埼玉の6県で家畜豚への感染が確認されている(当時の経緯は筆者の過去記事を参照)。発生から約1年が経過したいま、農林水産省がようやくワクチン接種を決めた背景について、全国紙経済部記者はこう解説する。

「家畜豚へワクチン接種を行うと、国際ルール上の『清浄国』認定から外れてしまうため、日本の豚肉が海外で輸入規制を受けたり、反対にほかの『非清浄国』からも豚肉を売りつけられたりする懸念があったのです。前回、国内で豚コレラが発生した際には撲滅まで11年かかりましたから、慎重にならざるをえない面もありました。

今回の感染拡大の主な原因は、野生イノシシによる拡散と、トラックの消毒など、衛生基準遵守が養豚農家に完全に浸透していなかったことの二つです。農水省としては、野生イノシシにワクチン入りのエサを散布した上で、養豚家に衛生基準を徹底的に守らせれば解決できると思ったのでしょうが、特に野生イノシシの拡散力は想定をはるかに超えていました。

政府としても、岐阜県や愛知県など、養豚が盛んというわけではない中部・東海地方だけに感染が抑えられているならまだしも、関東にまで被害が及び、さすがに『非常事態』と認めるしかなかった」

日本養豚協会幹部によると、九州の有力養豚県から猛反発があったことも、ワクチン接種が遅れる原因になったという。

「自民党からは、全国シェアの2割近い生産頭数を誇る、鹿児島県選出の森山裕国対委員長や野村哲郎参議院議員がワクチン接種に猛反対していました。

鹿児島だけでなく、九州南部は2010年に宮崎県で発生した口蹄疫の恐怖が身にしみているので、家畜の感染症対策が徹底しています。当時、養豚場周辺は細い裏道まで徹底的に消毒するほどでしたから、今回もワクチンに頼らずとも、養豚農家の努力と自治体の野生イノシシ対策で乗り切れると思ったのでしょう。

しかし、全国の養豚農家がそうした意識とノウハウを持っているわけではありません。あれよあれよという間に感染が拡大し、もう一つの有力養豚地区である関東にまで広がってしまった。数の上から言っても、関東地方は群馬、千葉、茨城、栃木を合わせると、鹿児島・宮崎の合計と同規模の全国2割程度の頭数を生産しているため、このまま九州に配慮してワクチン接種をせずにいれば、より深刻な事態になるとの判断でした。

初期に感染が確認された自治体は早期のワクチン接種を主張していただけに、『有力県の言うことばかり聞いた結果、感染が拡大した』と、業界では対応が後手に回ったことを批判する声も上がっています」

日本では、豚コレラに感染した豚は殺処分すると定められている。すでに約13万5000頭が主に埋却されており、感染豚が市場に出回ることはないが、風評被害の懸念はぬぐえない。

先の養豚協会幹部は「飽食の時代で豚肉以外にも多くの選択肢がある中で、消費者から嫌われれば死活問題です。ただでさえ農家の高齢化が進む中、今回の感染拡大を機に廃業が相次げば、養豚業は本当に壊滅してしまうでしょう。

前回の感染確認と終息のあと、我々が10年かけて獲得した『清浄国』認定が、こんなに短期間で崩壊してしまうとは思わなかった。それほど疫病を食い止めることは難しいということを教訓に、もう一度積み重ねていくしかない」と悔しさをにじませる。

農水省はワクチンの増産を製薬メーカーに指示し、都道府県知事の決定に従って、すでに感染が確認された県を中心にワクチン接種の範囲を拡大していく方針だ。

続く

以下ソース
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67413

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