【ナイト】世界の真ん中で「セーラームーン!!」を絶叫した男 都会の怖さを知る[03/20] [無断転載禁止]©bbspink.com
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年末から前回にかけて世の中の雰囲気や担当編集の圧力に負けて、やれ忘年会のカラオケだバレンタインだコロナウイルスだと個人的にいまいちテンションの上がらない主題を無理矢理ねじ曲げて書いていると、久しぶりにふざけた記事を書きたくなるのが人の常。
世の中はマスク不足だし、近所の薬局にはいまだにトイレットペーパーが売ってないし、飲食店も旅館も相次ぐ閉店の危機だけど、そういうのは自分が書かんでも頭のキレる人がたくさん書くだろうし、わたしに書けるのはスナックでのおかしな日常だけなので、とりあえず今回は平常運転に戻ろうと思う。だってこの連載のタイトル、スナック珍怪記だし。
二十時に出勤すると、手前のカウンターには、ちょっと珍しい人影があった。
「おぅユキちゃん、おはようさん」
入口でコートや鞄を掛けているわたしのほうに椅子をくるりと向けて、朗らかな声を上げたのはマッちゃんだった。
「おはよ〜。久しぶり〜」
「テンション低っ!」
飲んでないと相変わらずやなぁ、とマッちゃんはからからと笑った。
マッちゃんは二週にいっぺんぐらいの頻度で来店するお客さんだ。
年のころは四十半ば。黒いハンチング帽にメタル系のトップスやジャックダニエルのジャケットに黒いパンツ、だいたい全身黒づくめの怪しいサブカル業界人風だが、いかつい見た目に反してやわらかい京都弁でするりと懐に入り込む人当たりの良い性格で、懐かしのサントリーオールド、通称「だるま」を鬼のように飲む。声を使う仕事をしていただけに、渋い昭和歌謡を歌うよく通る声が魅力的だ。カウンターに入るなり彼からだるまのソーダ割を一杯ご馳走になり、連休で酒を抜いてエネルギー切れを起こしていた身体にガソリンが注ぎ込まれて生き返った心地になった。
「ユキちゃん、『スケアリーストーリーズ』観た?」
早速、最近の映画の話題になった。新型コロナ騒動以来、少し映画館へ行くのを控えていたわたしはソーダ割を一気に飲み干しながら首を横に振る。
「はよ見いや。何してたん週末」
「部屋に籠って『崖』観てた」
「アンタまたふっるいやつを……」
マッちゃんは映画オタクと言っても過言じゃないぐらい映画に詳しい。メジャーなものからドマイナーなものまで、仕事帰りに映画館をハシゴして何でも観てる。タイトルを告げればだいたいの作品は通じるので、わたしみたいにモノクロとか、あまり話題作でないものばかり好んで観るタイプの人間にとっては嬉しい存在だ。変な映画を観たら彼に話したくなるし、変な映画を観たい時は彼に聞けばとびきり変なのを教えてくれる。
その日も、『岬の兄妹』とか『アントラム』とか『デンデラ』とか、わりとマイナーな映画の話で盛り上がっていたのだが、奥のカウンターでは風俗王・ミスター川越がSM風俗での思い出をマスターに熱く語っていた。ホテルの窓に押し付けられて「あなたの恥ずかしい姿が東上線から丸見えよ」と言われたとか、ソファに縛り付けられてパンツのシミをスケッチされたとかいつものやつだ。ちょいちょい耳に飛び込んでくる面白ワードにこちらの我々もつい噴き出してしまう。それに触発されてか、マッちゃんが突然ポツリと言った。
「そういや俺、昔、変な風俗行ったことあんねん……」
皆の視線が一斉にマッちゃんに集まる。いつもは深い時間にならないと積極的に下ネタを語ろうとしない彼が、わたしがチンコとか言うと「まだ二十一時半やで!?」と突っ込む彼が、まだ二十二時前だというのに珍しく自分から話し始めたので、心地の良い声に皆で耳を傾けた。
今から二十年くらい前、京都から東京へ来たマッちゃんは浮足立っていた。大阪にも住んでいたから都会は見慣れているけど、やっぱり色んなものが珍しくて渋谷や銀座、新宿など繁華街を歩き回った。一番興味があったのはなんといってもイメクラだった。当時、関西ではそこまで多くなかったイメクラが東京にはたくさんあると聞いていて、別段アニメやコスプレに執着があるわけではなかったが、一度は試してみたいと思っていた。
続く
以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1653832
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http://mercury.bbspink.com/hnews/
■新作AV情報なら”AV情報+”
http://mercury.bbspink.com/avplus/ どっかいい感じのとこはないか、考えながら新宿を歩いていると、怪しい風体の男性から声を掛けられた。
「お兄さん、セーラームーンどうですか?」
「はい?」
「可愛いセーラームーンいっぱい居ますよ」
まさに待ち望んだイメクラのキャッチだった。
「はぁ〜。セーラームーンかぁ〜。東京はすごいなぁ〜」
と言いつつもセーラームーンにあまり詳しくはない。どうするか悩んでいたが、「四十分六千円ですよ」という言葉に押されて、彼はついに地獄への扉を開けた。
「どの娘にしますか?」
店に入って見せられたパネルには、本当にセーラームーンがいっぱいいた。
セーラー愛華、セーラー美奈子、セーラー紗花etc。金髪茶髪はまちまちだけど、どれもみんなツインテールで紺のセーラー服を着ている。やっつけ感と雑さに溢れていた。
(マジでセーラームーンしかいないやんけ。マーズとかヴィーナスとかおらんねんな)
心の中でそう突っ込めるぐらいの知識はあった。適当に目についた娘を指さすと、やたらとだだっ広い部屋に通された。今思えばSMのプレイルーム的な感じであると彼は言う。
所在なく部屋で佇んでいると、突然扉が開き、全身タイツに覆面を被った二人組が入ってきて叫んだ。
「我々は妖魔だ! お前を人質にする!」
たどたどしい演技だった。体格で男性と女性だとわかるが、二人とも結構歳のいった声だ。
「えっ? えっ?」
動揺していると、あれよあれよという間に服を剥ぎ取られ、パンツ一丁にされて壁の手錠に括りつけられた。そこで初めて、SM系の店なのではという疑惑が持ち上がる。受付では何の説明も受けていない。
「あの〜ここって…」
「黙れ!お前の質問は受け付けない!」
訊ねようとすると遮られ、細くて薄っぺらい鞭で叩かれた。あんまり痛くはない。仕方がないので黙ってじっとしていると、妖魔のオジちゃんとオバちゃんは、マッちゃんの身体を弄り始めた。乳首を抓ったり、筆みたいなもので股間をサワサワされた。そうこうされているうちに、嫌でも下半身がむくむくと膨れ上がってくる。こんなので反応してしまうのが悔しかった。
「気持ち良いのか?」
妖魔のオバちゃんが芝居がかった声で訊いた。
「……はい」
「セーラームーンに助けてほしいか?」
「……はい」
「ならばセーラームーンに助けを呼べ!」
妖魔のオバちゃんは下半身を弄る手を止めることなく言った。マッちゃんはもう恥ずかしさと混乱でわけがわからなくなっていたが、恥じらいを捨てて叫んだ。
「たすけてーーーー! セーラームーーーーン!!!!」
部屋中に響き渡った彼の雄叫びは、妖魔のオジちゃんの次の一言によってリノリウムの床に叩き落とされた。
「セーラームーンは来ないっっっ!!!!!!!」
「えっっ……!?!?!?」
まさかの一言である。
(えっ?セーラームーンの店やのに、セーラームーン来ないの??うそやん)
「お前のような穢れた奴には、セーラームーンは助けに来ない!!!」
「え……それってどういう……」
余計に混乱するマッちゃんに、妖魔のオジちゃんはさらに絶望的な一言を告げる。
「セーラームーンに助けてほしければ、あと四千円払って二十分延長しろ!!!!」
なんというぼったくり。あっけにとられていると、奥のカーテンの影からセーラームーンの脚らしき赤いブーツがひょいっと覗く。脚だけ。
「さぁどうする!?」
ひょいっ。
「あの……延長しなかった場合ってどうなるんです?」
一応訊いてみた。
続く 「その場合は我々がお前のその邪悪なモノを処理する!」
妖魔のオバちゃんはそう言ってマッちゃんの膨らんだ下半身を指さした。覆面越しの目がニヤリと笑う。それだけは勘弁してほしかった。セーラームーンのイメクラに来てセーラームーンに会えないなんて冗談じゃない。どうせ金を払うならセーラームーンに来てもらわねば! よくわからない意地が込み上げてきて、彼は小さな声で言った。
「延長します……」
小声で延長を告げるや否や、カーテンの向こうから、まぁどうにかこうにかセーラームーン風の雑なコスプレをした女の子が「もう大丈夫よ!」と、わざとらしい演技をしながら飛び出してきた。妖魔のオジちゃんとオバちゃんはそそくさと退散し、セーラームーンによって速やかに手錠が外されて、カーテンの奥へと案内され、マッちゃんの下半身はようやく救済された。セーラームーンと触れ合った時間は、十分ちょいくらいだった。
結局一万円を払った彼は、もう二度と東京のイメクラなんて行くかと心に誓ったのであった。
巧みな演技力と身振り手振りを使って語られるマッちゃんの話にわたしたちは爆笑した。
世の中は自粛ムードでどんよりして客足もまばらだけど、店内では相変わらず笑いが絶えない。話の余韻でしばらく肩を震わせていると、川越さんが「あっ!」と思い出したように声を上げた。
「そういえばわたし、M嬢を攻めに行ったはずなのに、結局ペニバンで掘られてしまったことがあるんですけど」
こうして、今日もスナックの夜は更けてゆく。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています