世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の治療法を確立するため、各国の研究者らはさまざまな薬剤をテストしています。そんな中、イギリスのオックスフォード大学の研究チームが行った大規模な臨床試験で、安価で世界的に広く使用されているステロイド系抗炎症薬の「デキサメタゾン」が、COVID-19の重症患者の死亡率を大幅に低下させる可能性があると判明しました。

研究チームは2020年3月〜6月にかけて、イギリスの175を超える病院で治療を受けていた患者を対象に、COVID-19の潜在的な治療法をテストするためのランダム化比較試験を実施しました。この試験の中で試された薬剤の1つがデキサメタゾンであり、合計で2104人の患者に対し1日当たり6mgのデキサメタゾンが経口投与または静脈内注射で10日間にわたって投与され、通常の治療のみを受けた4321人の患者と比較されたとのこと。

治療開始から28日後の時点で、通常の治療を受けた患者の死亡率は、気管挿管などを伴う人工呼吸器の装着が必要だった患者で41%、マスクを装着して酸素の供給が必要だった患者で25%、肺が十分に機能していた患者で13%でした。一方、デキサメタゾンを投与された患者では、人工呼吸器を装着した患者の死亡率が35%減少し、人工呼吸器なしで酸素が供給された患者の死亡率が20%減少しました。人工呼吸器や酸素供給が必要なかった患者の死亡率は、デキサメタゾンの投与で変化しませんでした。

オックスフォード大学で新興感染症の教授を務め、臨床試験の主任研究者でもあるピーター・ホービー氏は、「デキサメタゾンはCOVID-19の生存率を改善することが示されている最初の薬物です。これは大変歓迎すべき結果です。酸素治療を必要とする患者に対する生存率のメリットは明確かつ大きなものであり、デキサメタゾンは今すぐこれらの患者の標準治療になるべきです。デキサメタゾンは安価ですぐに入手でき、直ちに使用して世界中の命を救うことができます」と述べています。

また、研究の共同責任者であるマーティン・ランドレイ教授は、COVID-19の重症患者は世界のどこにいても、ただちにデキサメタゾンによる治療を開始できると語っています。「これは偶然の結果ではなく、完全に説得力のある結果です」「これは世界的に入手可能であり、高価ではありません。この点は非常に重要です」とランドレイ氏はコメントしました。

デキサメタゾンは炎症反応や免疫反応を協力に抑制する抗炎症薬として、リウマチやぜんそく、重症アレルギー反応、高山病などの数多くの病気に対して使用されています。開発されてから60年近くが経過するデキサメタゾンは非常に安価であり、イギリスの国民保健サービス(NHS)で治療を受けた場合の費用はわずか5ポンド(約670円)、インドなどの新興国では1ドル(約110円)以下でデキサメタゾンを入手できるとのこと。

一体なぜデキサメタゾンがCOVID-19の重症患者に大きな効果を発揮するのかというメカニズムについては、依然としてはっきりとわかっていません。しかし、体内の炎症反応を抑制するデキサメタゾンの作用が、COVID-19が重症化した際に発生する過度の免疫反応であるサイトカインストームを抑制し、ウイルスだけでなく体の組織にも害を及ぼす炎症性サイトカインがあふれるのを防ぐ可能性があると指摘されています。

イギリス政府は即座にデキサメタゾンをCOVID-19の治療薬として承認すると発表。マット・ハンコック保健相は、「この素晴らしいブレークスルーは、我々の科学者たちが舞台裏で行ってきた驚くべき仕事の証です」と述べ、デキサメタゾンの使用は多くの命を救うだろうと主張しました。また、ボリス・ジョンソン首相も一連の研究結果を称賛し、COVID-19のピークが再び到来しても十分な量のデキサメタゾンを確保できるように措置を講じたと述べました。

しかし、記事作成時点では研究の詳細なデータや論文が公開されていないため、査読を受けた正式な論文やデータが公開される前に喜ぶのは早すぎるとの声も上がっています。

以下ソース
https://gigazine.net/news/20200617-dexamethasone-reduces-death-covid-19/

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