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事件現場となったホテル前には花やお菓子が供えられていた

 SNSに平気で仕事や日常を投稿するような人でも、顔だけ写さない、モザイクをかけるなどして匿名であることにこだわる人は少なくない。だが、ひとたび社会的な事件や事故に巻き込まれると、本人の意向とは関わりなく実名が広く知られてしまう。犯罪被害者のはずなのに――俳人で著作家の日野百草氏が、同業者が殺人事件に巻き込まれて実名報道されたことに動揺する女性の、悲しみと諦めについてレポートする。

 * * *

「私も、殺されたらデリ嬢で名前が出るのでしょうか、それが不安です」

 SAYAさん(30代女性・仮名)の文面は切実なものだった。彼女はデリバリーヘルス(派遣型風俗店、いわゆる”デリ”)に登録している”デリ嬢”(デリヘル嬢)だが、事件を知って他人事ではないと筆者に直接DMをくれた。他、もうひとり20代の女性からもいただいたが、そちらは切実な生活の厳しさが主なので、別途取材を進めている。

「私たちの仕事なんて名前はあってないようなもの、でも殺されると出てしまうんですね」

 彼女の恐れは実名報道だった。事件は6月1日、東京都立川市のホテルで女性が70カ所以上を刺されて殺害されたという凄惨なものだった。容疑者は19歳の少年、店を利用するのも初めてなら被害者の女性とも面識はないという。店とはSAYAさんと同様、デリだった。容疑者は未成年なので名前は出ないが、殺された被害女性の名前は全国に晒された。それもデリ嬢として。

「(名前を)出す必要あるんですか、よくわかりません」

 本稿は構成上、DMのやりとりを整理、起こしたものであり、あえて不明瞭な箇所や若い女性特有の特殊なスラングなどは置き換えている。

「殺された子(女性)はデリ(嬢)だから名前出て、少年だから出ないなんておかしいです」

 SAYAさんの気持ちはよくわかる。この事件のわずか10日前、5月21日に可決した改正少年法は結局、先の民法改正で成人としたはずの18歳、19歳を「特定少年」なる意味不明の位置づけでお茶を濁す結果となった。2022年4月1日から民法上18歳、19歳は成人となるが、改正法は引き続き「少年」であり、「少年の健全育成」という保護名目から外されることはなくなった(ただし逆送後の起訴で実名報道は可能となる)。

「19歳って少年じゃないです」

 あくまでSAYAさんの意見だが法の施行は来年4月から。逮捕されたばかりの19歳の少年は名前が出ない。しかし被害者である彼女の名前はデリ嬢として出てしまう。SAYAさんも怖い思いをしたことがあるのか。

「(怖いお客さんは)何考えてるかわからない人です。わかりやすいオラオラな人は楽しい人が多いけど、ネクラな感じで”死のうかな”とか話しだしたり、”女の子を飼育したい”とか(言ってくる)気持ち悪い人が一番怖い」

 いわゆる”病み客”と呼ばれる客層のことで、わかりやすい”クソ客”よりも嬢を壊す。壊すどころか猟奇的な趣味を実行するかもしれず、店では最大のNG客だ。しかしデリは箱(店舗)ではないので即対処というわけにはいかない。駆けつけるにも(車で待機するパターンであっても)時間がかかる。派遣なので女の子は基本、一人で客が指定する部屋に行く。生活のためとはいえ、尋常でない怖さだろう。ましてやこのコロナ禍だ。

「コロナでデリやってる私もヤバいけど、コロナでデリ呼ぶ人ってのもヤバい」

 それでも客は減ったという。SAYAさんもお金のために仕方なく、多少は嫌な客でも機嫌をとって次の指名に繋げるという。

「立川のデリは都心に比べたら稼げません」

 これもまたSAYAさんの感想で、筆者も詳しくはないのだが、コロナ禍で風俗も壊滅的だ。店舗に比べればデリはマシと聞くが、都下や地方となると事情は変わるのかもしれない。

「冷たい店も多いです。同じ仕事してる子たちともやり取りすると愚痴ばかりです。ドラ(デリヘルのドライバーのこと)は優しい人多いですけど、在籍スタ(デリヘルの事務所スタッフ)はやる気ないし」

続く

以下ソース
https://www.news-postseven.com/archives/20210605_1666101.html

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