―[おっさんは二度死ぬ]―

 それはたぶん、呪いのようなものなんだろう。

 おっさんはいつも同じ話をする。とにかく繰り返し同じ話をする。どうやら、おっさん自身もある程度は俺、同じ話をしているかも、みたいに思う部分があるらしく「この話、したっけ」と前置きをするのだけど、それをした上で、やはり同じ話をする。

 それは、単に忘れっぽいだとか、話のネタがそれしかないだとか、そういった要素ももちろんあるのだろうけど、もっと根っこの部分、深層心理のところまで掘り下げていくと、それはもう呪いなんだと思う。

 つまり、何度も口にしてしまうほど、その「同じ話」に呪われているということだ。それはもう呪縛と言っても過言ではなく、同じ話をグルグル、グルグル、おっさんを円環に閉じ込める呪いと化すのだ。

 本田さんもそんな呪いに囚われ、円環の中にその身を沈み込めた一人だった。

「でさあ、プロフィール帳ってあったじゃん」

 本田さんはかったるそうな表情でそう言った。彼は駅前のパチンコ屋で知り合ったおっさんで、僕と同年代でちょっと年上ということもあり、なにかと話が合う人物だった。そんな彼が酒を飲み、盛り上がってくると必ずする話がある。
 それが「プロフィール帳」のエピソードだ。

「あれ、この話、したっけ?」
「いえ、まだですね」

 まだ何も話していない状態でそう質問することに大きな意味はない。単にこれからプロフィール帳の話をするぞ、という合図に過ぎないのだ。もう12回は聞いた、と思いつつも指摘はしない。なぜならこの話をするとき、その回数ごとに微妙に話の内容が変わっているのだ。それが楽しみで何度も同じ話を聞いている。

 もうかなり昔の話だ。本田さんが通っていた中学校で奇妙なものが流行しだした。卒業を間近に控え、女子たちが慌ただしく何かを交換している。それとなく見てみると、淡いピンクに彩られた小さな紙があった。それが「プロフィール帳」だった。

 それは一つのバインダー状の冊子になっていて、名前だとか住所だとか血液型、生年月日、メッセージなどを記入するようになっていた。早い話、プロフィール帳の名称通り、プロフィールを記入するようになっているのだ。

「ど真ん中にどでかいハートが書いてあった」

 本田さんはそう主張するが、この部分のギミックは話を聞くたびに微妙に変化している。星型だったり、チューリップ型だったり、お姫様だったり、その日の気分で変わるようだ。だいたい調子がいいときはハートになるようだ。つまり、今日は調子がいい。

 卒業を間近に控え、離れ離れになる友達にこのプロフィール帳の1ページを渡し、記入してもらうわけだ。そして最終的には友人のプロフィールがぎっしり詰まった1冊のプロフィール帳が完成するわけだ。

 はじめは女子の間で流行していたが、次第にその数を競うようになってきた。つまりたくさん集めるほどステージが高いし、たくさん頼まれることもステータスとなっていった。そして女子だけでは収まらず、男子にまで侵食していったのだ。

 最初は、女子に人気のスポーツ万能男子や、クラスの中心的存在男子など、今でいうところの陽キャ的な男子にのみ、そのプロフィール帳の記入依頼があったが、次第にその周囲の男子にまで侵食していった。ピンク色でかわいい絵柄のページが多く、男子たちは「こんなもの書けねえよ」みたいに照れていたが、まんざらでもない感じだった。

 本田さんに依頼は来なかった。意味不明に放課後の教室や、夕暮れの下駄箱で佇んでみたりもしたが、どの女子からも記入依頼はなかった。この辺りは、なんど聞いても一貫して「放課後の教室」「夕暮れの下駄箱」で変化しないので、本田さんの中で譲れない何かがあるのだと思う。

 そんな中、本田さんが好きだった麻美ちゃんという女の子がついにプロフィール帳に手を出した、という情報を入手した。麻美ちゃんは厳しい家庭に育っていたのでなかなかプロフィール帳を購入してもらえなかったが、ここにきてついに購入したようだった。

続く

以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1757581

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