2021/07/30
情報を見極める目と「抗震力」
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地震は多様で、過去のパターン通りにやってくるとは限らない。
米国カリフォルニア州のパークフィールドでは記録の残る1857〜1966年、
ほぼ22年間隔でM6の地震が6回繰り返し発生していた。
最後の3回は波形も極めて類似しており、世界で最も地震の予測が確実な場所と思われていた。
地震学者が多くの観測機器を設置して、88年を待ち受けたが、地震が発生したのは予測より16年も遅い2004年だった。
震源や様式も直前の地震とは大きく異なっていた(注3)。
南海トラフ大地震も、南海地域と東海地域が同時に動くケースや若干の時間差が生じるケースなど、
震源を見ただけでも多様性がある。次にどのようなタイプの地震がくるのかわからない。
さらに、寿命百歳ほどの人間と、誕生から46億年の地球では時間の尺度が全く違う。
地球の寿命を仮に100億年とした場合、地球の1秒は、人間にとっては3年以上に相当する。...
日本の地震研究は長年、昭和東南海地震と昭和南海地震の時にすべらずに残った、
駿河湾を震源とする東海地震の前兆をとらえて被害を軽減することを目的に推進されてきた。...
ところが、切迫していると言われた東海地震が起きないまま、阪神淡路大震災、東日本大震災などが発生した。
東日本大震災では、観測史上最大の巨大地震が発生したにもかかわらず、前兆をとらえることができなかった。...
南海トラフについては発生確率の数字が大きくなるからくりもある。
南海トラフだけ、他の地震とは異なる「時間予測モデル」という手法で計算している。
時間予測モデルでは、次の地震までの間隔が前回の地震の規模に応じて変化すると考える。
高知県の室戸岬の室津港では、過去3回の南海地震による隆起の高さがわかっている。
隆起の高さを地震の規模と考えて、次の地震までの発生間隔を予測して、地震の発生確率を計算している。
前回1946年の昭和南海地震は規模が比較的小さく、放出されたひずみのエネルギーが小さかったため、
次の地震までの間隔が短いと予想され、地震の発生確率が高く出ている。
南海トラフについても、他の地震と同じように過去の地震の発生間隔を統計的に処理して今後30年間の地震発生確率を
計算すると、過去の記録をどこまで参考にするかにもよるが、6〜30%程度(基準日2013年1月1日)と大幅に低くなる。
地震と地震の間隔が長い正平地震(1361年)以前のデータを考慮すると、地震が起きるのは22世紀以降になっても
おかしくないのだ。
時間予測モデルでは、「地震は蓄積されたひずみが解放される過程」という地震の物理的な背景が加味されており、
予測がより正確になると期待される反面、問題点も多く指摘されている。
最大の問題は、駿河湾沖から九州東岸まで震源域が広大で、多様な南海トラフの地震を、室津港のたった1点のデータだけで
予測できるのか、というものだ。...
最大規模の巨大地震の推定も、考えられる震源域の断層を最大限つなぎ合わせたようなもので、過去数千年間にそのような
地震が発生したことを示す記録はない。東日本大震災の「想定外」のショックから、慌てて計算した側面もある。
長期評価でも、M9の最大クラスの巨大地震の発生確率は、通常の南海トラフ大地震に比べ1桁以上小さいと記載している。
しかし、南海トラフについて、最大34メートルの津波を伴う巨大地震が今後30年間で70〜80%の高い確率で発生すると
思っている人は少なくない。...