安倍晋三元首相の銃撃死事件を巡っては、凶行に及んだ容疑者・山上徹也に極刑を望む意見がある一方で、その不幸な生い立ちから擁護する声も上がっている。ネット上に溢れる言葉は、同情、共感、憧れ、好意……と、どれも殺人者には不似合いなものばかりだ。

 この熱狂の正体は何なのか。山上容疑者を通して、現代社会の闇に光を当てる。

 銃撃事件以降、ツイッターでは山上容疑者を「#山上烈士」と呼ぶ投稿を多く見かけるようになった。烈士とは、革命や維新のために戦い、功績を残し、犠牲になった人を指す。ほかにも、苗字をもじって、「山神様」や「山上義士」と呼ぶ人もいる。

 共感を超え、山上容疑者をあえて崇拝する人は、どこに惹かれているのか。

 ツイッターで、〈山上烈士は英雄。励まされる〉と呟き、何度も称賛する投稿をしていたAさん(20代男性)が話す。

「私も幼い頃から家が貧しく、家族はバラバラ。肩身の狭い学生時代を過ごし、仕事は非正規という社会的弱者です。山上さんの生い立ちや境遇を考えると、犯行に走る気持ちも理解できます」

 殺人者を擁護することに引け目はないかと聞くと、「殺人は容認できない」と答えつつも、「殺人と、カルト宗教の法規制の第一歩を踏み出した彼の功績は別です」と続ける。

「殺人という罪以上に、カルト宗教が現存していることが一番の問題点であり、事件の根幹そのもの。闇を暴いた彼の“革命”を批判する人は、事件の本質や社会的弱者の気持ちがわからないのでしょう」

 取材中、山上容疑者のことを一貫して「山上さん」と呼び続けていたAさん。記者が「山上容疑者」と呼ぶと、なぜか無言になり、気まずい空気が流れた。その後、何人かにインタビューをしたが、山上容疑者を崇拝する人には誰一人として「容疑者」をつける人がいない。

「彼は令和の赤穂義士。心から尊敬します」

 また、〈山上烈士を尊敬します〉と、絶賛していたのが、Bさん(30代男性)だ。

「カルト宗教の問題と、政治の癒着という巨悪を一人で暴いたのだから、英雄視されるのは当然です。一人で教団を壊すのは難しいと考えて、直接攻撃するのではなく、教団と繋がりのある大物政治家の安倍氏を標的にした。それは非常に現実的かつ論理的な動機だ」と、熱弁が止まらない。

 彼らのように山上容疑者を支持する声が出る理由を聞けば、「日本は昔から仇討ちの物語を好むから」と話す。

「『弱者が権力者を倒した』『巨悪を暴いた』という構図が支持されているのかなと。カルト宗教に財産や将来を奪われて、なお復讐のために努力を続けて大事を成した彼を、僕も本当に尊敬しています」

 7月15日に始まった「山上徹也容疑者の減刑を求める署名」は、8月15日時点で6700人超まで増加。ツイッターでは、「動機がわかるたびに支持者が増える」という指摘もあった。“弱者のヒーロー”として山上容疑者を支持する声は増えている。

 凶悪犯罪者に惹かれてしまう現象を「ハイブリストフィリア(犯罪性愛)」という。過去にも、オウム真理教(当時)の上祐史浩氏のファンである「上祐ギャル」や、リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の犯人、市橋達也のファン女性が話題になった。

 そして今、“山上徹也好き”を公言する女性が登場している。今回はA子さん(20代前半)、B子さん(30代後半)、C子さん(50代前半)の3人に話を聞いた。世代の違う女性らが交わるきっかけになるのが、SNSによる?がりだ。

 例えば、B子さんが投稿した〈何度見てもイケメン。私はめちゃくちゃタイプ〉という内容には200を超える「いいね」がつき、共感する女性の引用コメントが相次ぐ。その一人がC子さんだった。

「身近な人に言ったら非難されるのはわかっている。そんななかで同じ気持ちの投稿を見つけたから、便乗させてもらったという感じです」

 一方、20代のA子さんはもっとライトな感覚だ。

「芸能人を好きになるのと同じで、山上徹也さんも“推し”の仲間入り。今後は刑務所に同じ思いの女性と差し入れや手紙を送ろうと考えています」

 今では各種メディアで山上徹也に関する情報が毎日のように入ってくる。それが彼女たちの妄想を掻き立て、山上徹也という存在の“キャラクター性”が膨らみ、気づけば夢中になっているという。

続く

以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1857120