「解散命令は本当に機能するのか?」

誰もが抱いている疑問だろう。政府は10月13日に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の解散命令を東京地裁に請求したが、現時点で効力はない。裁判所で判決が出て初めて宗教法人の解散が確定する。事実、旧統一教会は請求の3日後に記者会見を開き、全面的に争う構えを示した。

解散命令が確定すれば、宗教法人の財産は裁判所が選任する「清算人」が管理することになるが、逆に言えば、確定するまでは財産は好きに使えることになる。旧統一教会は「財産隠し」をするのではないか、という懸念も指摘されている。

「カルト宗教」に洗脳された被害者でかつ加害者でもある、元「オウム真理教」ナンバー2、現「ひかりの輪」代表の上裕史浩氏(60)の見解を聞いた。

――旧統一教会の解散命令に関する記者会見をご覧になった感想は。

「ほぼ予想通りといったところですが、印象的だった点が3つあります。
一つ目は、政府による宗教法人の解散命令請求がなされたことに対して『憲政の汚点になる』と批判したこと。そもそも教団は、大日本帝国時代の罪を強調したり、共産主義勢力と闘ってきた点で闘争的な性格であり、それに加えて、今回の解散命令請求の流れに納得がいっていないのだろうと思いました。

二つ目は、被害賠償のための100億円の供託金を提案しながら、教団執行部の霊感商法や過剰献金への関与を認めぬまま、『お詫びはしても謝罪はしない』という従来からの姿勢を維持したこと。これは、宗教法人の解散命令請求の裁判において、教団執行部による違法行為の指示・関与があったか否か(違法行為の組織性)が争われる以上、そうせざるを得なかったのでしょうが、世間から見れば“教団は嘘をついている”と感じられるものだったと思います。

三つ目は、供託金100億円の発表の狙いについて。おそらく、被害者賠償を避けるために資産隠しをするだろうという懸念を和らげ、被害者賠償をする意思を社会に示して、解散命令請求の裁判を有利に進めようとしているのだと思います。同時に、賠償請求されても教団には十分な資金が既にあることを示し、信者を安心させつつ、教団を社会の批判から守る賠償のためにも献金が必要であることを示す狙いがあるのかなと思いました」

ーー「教団の資産全体を公開すべきだ」という批判もあります。

「これは後から重要になってくる可能性があると思います。旧統一教会は宗教法人だけではなく、国内外の様々な関連団体の集合体であり、日本の宗教法人だけが、その主な資産ではないと思うのです。鈴木エイト氏などによれば、宗教法人名義以外の財産があるといいます。文化庁は、宗教法人法に基づいて、宗教法人名義の資産の報告を受けることはできますが、それ以外の教団の資産については把握できないのです」

――かつてのオウム真理教のように、政治への不満などから“暴徒化”する可能性、テロを起こす可能性はあるのでしょうか。

「暴徒化する可能性は非常に低いと思います。宗教団体はカルト的であればあるほど、教祖・上層部が絶対的になりやすいと思いますが、開祖の文鮮明氏は知られている限りでは、暴力行動を指示することはなかった。彼の死後も教団は文氏の思想・行動パターンを継承していると思います。一般論として、暴力的になるのはオウム真理教のように信者が若者中心の教団で、旧統一教会の主力は既にかなり高齢化しています。

ただし、思考に関して言えば、コアな信者を中心に『政府と日本社会が教団を弾圧している』とは考えるかもしれませんね。報道されているように、今回の流れに対して、教団の内部では、韓国の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が、日本の幹部信者に『日本は戦犯国、原罪の国であり、被害国に賠償すべきなのに、日本の政治家は家庭連合を追い詰め、(彼女を)救世主として認めぬ罪を犯しており、日本は滅びるしかない』などと説いたとされます。

田中富広会長(67)も、キリスト教の弾圧の歴史に例えながら、陰謀論めいた話を信者に語っているとされます。何度か会ったことがある教団の地区幹部の人も、今回の批判を陰謀論で解釈しようとしていました。教団のコアな部分が、今回の解散命令請求を理不尽な弾圧と見て、日本社会を『原罪の国』と見る従来の思想を、悪い意味で深める懸念はあると思います」

続く

以下ソース
https://friday.kodansha.co.jp/article/344384