自殺の認識が変わるかもしれません。

米国のカリフォルニア大学(UC)で行われた研究によって、男女で異なる5つの化合物の血液濃度を測定するだけで、自殺念慮の高い人を90%以上の精度で特定できることが示されました。

また研究では男女共通の自殺念慮の因子として「ミトコンドリアの機能低下」を示す化合物も特定されました。

ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産工場として機能しているだけでなく、脳と体の間の信号を調整する「ミトコンドリア情報処理システム(MIPS)」の中枢を担っており、機能不全は全身の細胞に大きな悪影響を及ぼすと考えられています。

このことから研究者たちは、プレスリリースにて「自殺未遂は実際には、細胞レベルで耐えられなくなったストレスを(死によって)止めようとする、より大きな生理学的衝動の可能性がある」との仮説を提唱しています。

研究内容の詳細は2023年12月15日に『Translational Psychiatry』にて公開されました。

血液検査で自殺しそうな人を特定しようとするアイディアは、実は10年以上前から存在していました。

ただ10年前の段階では、血液検査の精度や検出能力が十分ではなく、細胞内の多種多様な化合物を網羅的に分析することは技術的に困難でした。

そのため血液検査を介した自殺リスクの予測研究の多くは、特定の病状に限った分析だったり、再現性に問題がある(研究ごとの結果が一致しない)場合もありました。

しかし、ここ10年の急速な細胞生物学の進歩によって、細胞の活動によって生じるあらゆる分子を網羅的に検出する技術「メタボロミクス」が大きく進歩しました。

そしてメタボロミクスの進歩によって得られた膨大なデータを分析することで、細胞のある瞬間の生命活動全体を「把握」することができ、細胞が生産するホルモンをはじめとした全ての化合物をカタログ化することも可能になります。

(※研究者たちはこの進歩について「細胞たちの母国語である生化学の言葉を使って会話(分析)できるようになった」と表現しています。DNAや少数の化合物を測定する従来の分析法はいわば外国語で細胞とコミュニケーションをとっていたようなものです。それに対して、メタボロミクスは直接的に細胞の実体を知る手段となるのです)

そのためこれまで「怒り、悲しみ、喜び、苦しみ」のような精神的な現象の解明は脳科学や神経科学の分野に大きく依存していましたが、メタボロミクス技術の進歩により、特定の精神状態が「全身の細胞」にどのような変化をもたらすかも、解読できるようになったのです。

そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、最新のメタボロミクス技術を駆使することで「人間が自殺したいと考えている時に体の細胞がどんな化合物を増減させるか」を調べることにしました。

自殺したいと思っているとき、体の細胞たちはどのように化合物の生成パターンを変えるのか?

答えを得るため研究者たちは、うつ病と自殺念慮を持つ人々100人と健康な人々100人を集め、血液成分に対してメタボロミクスを実行しました。

体中を巡る血液には、体の各部位の細胞で作られた化合物が混ざり込んだ複雑なカクテルを構成しています。

すると、うつ病と自殺念慮を持つ人々で、大きく血中濃度が変化している化合物があると判明します。

また興味深いことに、化合物の変化のパターンは男女でも大きく異なることが判明します。

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上の図では、うつ病と自殺念慮を持った人々で最も濃度変化が大きかった上位30種類の代謝化合物とその変化(赤文字の化合物が増加、黒文字の化合物が減少)を示しており、左側が男性で右側が女性となっています。

これらの結果から研究者たちは、うつ病や自殺念慮によって変化する血中成分は男女で大きく違うと結論しました。

男女で異なる化合物が自殺念慮に関わっているという結果は、自殺に至る生化学的なメカニズムが男女で異なる可能性を示しています。

これは男性の方が自殺率が高いことを考えると、興味深い事実と言えるでしょう。

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次に研究者たちは、リストのなかからうつ病および自殺念慮との関連が強い5個の化合物の組み合わせを選び、血液検査に利用できるか検討してみました。

(※「濃度変化の大きさ=予測精度の高さ」ではないため、リストの上から順に5個が選ばれたわけではありません)

続く

以下ソース
https://nazology.net/archives/141123