松本人志氏の裁判を約3週間後に控えた3月3日、あるメッセージがネット上を駆け巡った。

〈松本人志さんの件について私はあんな嘘だらけの記事の内容に対して許せないから書きます〉

そんな書き出しで始まるのは、人気セクシー女優の霜月るなさんのX(旧ツイッター)への投稿だ。そこには週刊文春に報じられた大阪での松本氏の飲み会に参加していたとした上で、〈あんなデタラメな記事を見たら私も黙ってられない〉と書かれていた。

この投稿の反響は大きく、翌日、元大阪府知事・市長の橋下徹弁護士が〈これが事実なら週刊文春の取材不足、すなわち真実相当性を否定する重要な証拠になる〉、元宮崎県知事の東国原英夫氏が〈この証言が仮に事実なら、この記事を相手取って、松本人志氏側は訴訟を起こすべきであろう〉とそれぞれ投稿。

3月5日には、霜月さんが〈なんなら、裁判で証人として出ましょうか?それで松本人志さんを救えるなら。私はいつでも力になります〉と宣言して展開が過熱している。

はたして、霜月るなさんは松本人志氏の「救世主」になるのか。私の感想はただ一つだ。

「みんな、冷静になろう」

霜月るなさんの発言はおそらく正義感と善意からでたもので、ご本人の記憶に忠実なのだろう。ただ、裁判への効果についての結論はこうなると思う。

(1)霜月さんの発言は別の事件の話なので、この裁判を左右する可能性は低い。
(2)霜月さんの発言の内容は実は文春記事とほぼ矛盾しておらず、それだけで文春記事を突き崩すのは難しい。

まず一点目だが、松本氏側が今回の裁判で訴えているのは、数多く連載された中の最初の記事、去年12月27日発売号のものだけだ。この記事が報じていたのはA子さん、B子さんという二人の女性の証言で、性被害の舞台は東京の「グランドハイアット東京」、スピードワゴン小沢一敬氏主催の飲み会だった。

週刊文春の「訴状公開」の記事によれば、松本氏の訴状は文春記事が「原告がA子及びB子に対し性的行為を強要した」と報じたと主張し、その真否を争うものだったという。

一方、霜月さんの投稿は、週刊文春の第6弾の記事で報じられた「11人目」の証言者J子さんの証言についてのもののようだ。これは'16年に「ザ・リッツ・カールトン大阪」でタレントのたむらけんじ氏が主催した飲み会の話なので、ここで霜月さんが何を目撃したかは東京でのA子さん、B子さんの事件の直接の証拠にはならない。

ただ、霜月さんの発言について橋下徹氏はこう投稿している。

〈霜月さんにちょっと取材をすれば今回の記事のような書き方はできなかっただろう、霜月さんの証言も一緒に載せるべきだったと評価されれば文春の負け。ゆえに霜月さんの証言は超重要〉(3月5日付Xへの投稿)

しかし今回裁判になっている記事は、霜月さんは参加していない東京での飲み会についてなので、大阪の飲み会についての証言を「一緒に載せるべきだった」という判断は裁判所はしないだろう。

霜月さんの証言が裁判に関係するとしたら、文春側が「今回の報道は十分取材したものだ」という主張(いわゆる「真実相当性の主張」)をする中で、「A子さんB子さん以外にも似たような証言をたくさん取材した」と言ってきた場合だろう。

この「たくさん」のうちの一つであるJ子さんの証言を「信じてよかったのか」と反論する場面で霜月さんが登場しうるのだが、これは今回の裁判の争点からはかなり「遠い」。また多くの似た事案を取材する中で、多数にのぼる飲み会出席者の一人である霜月さんを取材し漏れても、それだけで「取材不十分」ともなりにくい。少なくとも今回の裁判で「超重要」とはならないだろう。

一方、東国原英夫氏が投稿したように、この「大阪での飲み会」に関する文春記事を松本氏が新たに提訴すれば、霜月さんの証言は直接関係してくる。

ただここにも一つ問題がある。

それが、霜月さんの証言と文春記事が、実はほとんど矛盾していないという点だ。

続く

以下ソース
https://gendai.media/articles/-/125367