JR京浜東北線関内駅――。青江三奈の「伊勢佐木ブルース」で知られる伊勢佐木町、500軒以上の飲み屋があると言われる野毛町、日本三大ドヤ街の寿町、観光名所の横浜中華街など、この一帯は、いくつもの異なる文化圏がとなり合わせになっている。

 その一角にある横浜市有数の歓楽街である福富町は、異国情緒溢れるナイトスポットとして人気だ。日本人だけでなく、訪日外国人も夜な夜な繰り出す盛り場として活気づく福富町。その裏側には、「福富町を六本木のような華やかな街にしたい」と奮闘するイラン人経営者たちの尽力があった。

 福富町は、関内駅から10分位ほど歩いた場所にある横浜随一の歓楽街であり、近年では、バーやクラブが密集する地域となっている。かつての猥雑な雰囲気はなく、近年では安全なバーとクラブの街へと変わりつつある。

 イラン人のアリザーデ・アスガル氏は、「PARTY ZONE」「Apache」「Apache2」「Apache3」の4店舗を福富町で営んでいる。「PARTY ZONE」はディスコクラブ、「Apache1〜3」はシーシャバー(水タバコ)だ。 

 アスガル氏は、2016年「Apache」をオープン。次いで、「Apache2」「Apache3」と店舗を増やしていった。「Apache」の名前の由来は、インディアンのアパッチ族にある。インディアンの自然と調和する生き方をずっと意識してきたというアスガル氏がつけた。

 アスガル氏の店の特色は、通りから見てもわかるギラギラ感だ。店内も豪華絢爛な空間になっているが、系列店である、地下の「PARTY ZONE」で踊り疲れた人もApacheで寛げる内装となっている。

 取材に訪れたこの日の夜、「Apache」の店内は客でいっぱいだった。日本に住む4人組のイギリス人が座敷の席でシーシャを吸いながら落ち着く中、店の奥では日本人客がダーツをしたり、踊りを楽しんだりしている。

「Apache」の地下にある「PARTY ZONE」では、アスガル氏が呼んだサンバのダンサーが登場し、客も壁一面に張られた鏡の前で音楽に合わせて踊っている。

 ひとりで来店していた70代の日本人男性がアスガル氏とハグを交わした。

 アスガル氏の店の客層は、アメリカ、イギリス、ロシア、イラン、中国など、じつに多国籍だ。70%近くが外国人だというが、本人はもっと日本人に来てもらいたいと言う。

「私はもっと日本人に遊びに来てほしい。だって、ここは日本なんだから。日本人はシャイな人が多いけど、とりあえずここに遊びに来てほしい。この店で知り合ってカップルになった日本人、いっぱいいるんですよ」

 日本人客の多くは、野毛から流れてくる人たちだ。野毛の飲み屋の多くは0時を前にして閉まる。

 ただ、居酒屋で酒を飲むだけで帰宅してしまうパターンが多い。アスガル氏も、

「日本人も若い人はもっともっと遊んだほうがいい。酒を飲んで終わりじゃなく、福富町に来てほしい」

 と繰り返した。

「私が福富町に来た2011年、たしかに福富町では喧嘩やトラブルが絶えなかった。私、とっても苦労したんですよ。街で喧嘩が起きるたびに何度も止めに入りました。自分の街でトラブルが起きることが嫌だったから。相手が外国人だろうと日本人だろうと、仲裁に入って、話し合いをした。大きな怪我をすることもあったけど、本当に頑張ったんですよ」

 アスガル氏が軍人として経験した、イラン・イラク戦争の経験も影響しているかもしれない。同じ街で遊んでいる者同士が殴り合うことが許せなかったという。自分の店でトラブルを起こした客がいれば、問答無用で出入り禁止にした。そんなことを続けていると、だんだんと福富町は平和になっていった。

「福富町は怖い、危ない。たしかにそんな時代もありましたよ。でも、それは昔の話なんですよ。私は福富町を“小さな六本木”にしたいと思ってる。そのためには外国人だけじゃなく、日本人にも遊びにきてもらわないと」

“暴力さえふるわなければ”、アスガル氏はどんな客でも受け入れるという。彼の店は、福富町の玄関といってもいいだろう。

以下ソース
https://nikkan-spa.jp/1982507