都会ぐらしをしていた人が地方都市に移住する場合、生活するうえで気をつけるべき点は多い。都会暮らしでは飲み会などで、仕事の愚痴を言い合ったり、上司の悪口を肴にしたりすることもあるかもしれないが、それは特に小さな地方都市ではご法度なのだという。2020年に東京から佐賀県唐津市に移住したネットニュース編集者・中川淳一郎氏が、自身の経験も踏まえて解説する。

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 私自身、東京にいた頃は会社員時代であろうがフリーランス時代であろうが、飲み会になると誰かの悪口で盛り上がることがありました。それこそ仕事で無茶振りして自分はさっさと飲みに行ってしまう上司のことやら、とにかく不潔な格好の外注先の中年男性についてなど。

 さらには、フリーになってからは「あいつはちょっと売れたからって調子に乗り過ぎている。いずれ足をすくわれるだろう」「ですよね。その時笑ってやりましょう」みたいな会話も展開しました。こうして皆で共通の「困った人」「ムカつく人」について思いを吐き出すことにより、翌日の仕事に精を出すことができたのです。

 しかし、これは地方ではやってはいけない。とにかく情報が筒抜けなのです。飲み会で悪口でも言おうものならめぐりめぐってその当人に伝わってしまう。だからこそ、唐津の飲食店店主の男性・A氏は、私が初めて店に行った時にこう助言をくれました。

「中川さん、この街では悪口を言ってはいけません。悪口を言っている時は楽しいかもしれませんが、その悪口によりあなたの評判が落ちてしまうことがあります。誰かが本人に伝えます。それぐらい地方都市というのは狭い世界なのです。そうしたライフハックを地元の人間は完全に習得しているから、唐津の飲み会では悪口があまり出てこないのです」

 この助言から3年3ヶ月が経過しましたが、本当にその通りです。確かに飲み会で悪口は滅多に聞くことがありません。聞くにしても、大人数の中、ヒソヒソ話で「ここだけの話だけどさ。あの男は信用しちゃいけないよ」などと言い、その話が表に出てしまった場合、誰がバラしたか分かるような言い方をするのです。

 それなのに、都会の人は「飲み屋では悪口を言ってもいい」的な価値観にとらわれているので、それについては「いや、違うから。コミュニティでうまく立ち回るために、悪口は言わないに越したことがない」ということを主張したいです。

 ただし、相手を明確に糾弾したいという覚悟を決めている場合であれば、いくらでも悪口・批判はしていいと思います。腹に据えかねるようなことがあったらそれは溜めるべきではない。一気に吐き出し不平不満は言っても良い。そのコミュニティを捨てることも辞さない場合において、悪口を言うことを私は否定しません。

 本当は悪口は言いたいところはあるのですが、「におわす」ぐらいだったらOKです。「う〜ん、あの人はアレやね」「う〜ん、オレの口からは何も言わんわ」ぐらいであれば、ネガティブな感情を悪口を使うことなく相手に伝えることができます。とはいっても、私自身、今はこうして悪口がない環境にいるので、地元の人々に対する悪感情は持っていません。その点、地方都市に住むのは精神衛生上も良いことだな、と日々感じています。

以下ソース
https://www.moneypost.jp/1129880/