貧乏画家だったポール・ワイナーさんは、米ニューヨーク州マンハッタンの画商から自分の絵を見たという連絡を受け取ったとき、ようやく仕事運が向いてきたと思った。「最初は、私の作品に興味があると思っていたんです」。当時ブルックリンの知人の家に居候していたワイナーさんは振り返る。「でもすぐに、彼女の本当の意図がわかりました」

 やり取りをしているうちに、画商の関心は作品よりも、ワイナーさんがいかにお金がなくて絵の具が買えないか、歯医者にも行けないかという苦労話の方に移っていった。「私の不幸な話を聞いて楽しんでいるようでした。そして、いつも新しい苦労話を聞きたがりました」

 ワイナーさんは、他人の不幸を見聞きして喜んだり快さを覚えたりする「シャーデンフロイデ(「Schaden(害)」+「Freude(喜び)」というドイツ語)」という感情の犠牲者になっていたのだが、当時はそんなこと知る由もなかった。

 この感情は新しいものではない。日本には昔から「他人の不幸は蜜の味」ということわざがあるし、19世紀の哲学者フリードリヒ・ニーチェの言葉「他人が苦しむ姿を見るのは喜びである」は有名だ。

 しかし、この分野の研究者たちによれば、現代人の間で特にこうした感情を抱く人が増えており、主な要因は3つあるという。

 この感情の根底にはしばしば、不公平感や道徳的優越感、妬み、または不幸な目に遭った人に対する「当然の報いだ」という思いがあると、米ジョンズ・ホプキンス大学の教授で、シャーデンフロイデに関する講演も行っているシルビア・モンティグリオ氏は指摘する。自分が嫉妬していた同僚が上司から絞られていたり、運転中にスピードを出して自分を追い越していったピカピカのスポーツカーが目の前でパトカーに停められるのを見てほくそえんだりするのはそのためだ。

 また、2023年6月にカナダ沖で資産家の乗客4人を乗せた潜水艇タイタンが行方不明になってから全員死亡のニュースが伝えられるまで、ネット上で「ネタ」にされた現象も、やはりシャーデンフロイデの感情が関係している。

「社会階級は昔から、シャーデンフロイデがはびこる温床となってきました」と、モンティグリオ氏は言う。「いつの時代にもシャーデンフロイデは存在してきましたが、増えたり減ったりと、波はあります。シャーデンフロイデを生じさせる感情がどのくらい社会に蔓延しているかによって変化するのです」(参考記事:「潜水艇タイタン事故、キャメロン監督とタイタニック発見者が激論」)

 今なぜ米国でシャーデンフロイデがはびこっているのか、3つの主な要因とその裏にある心理、そして負の感情との向き合い方について識者に聞いた。

要因1「エリートの過剰生産」
 2022年1月13日付けで、学術誌「Journal of Personality and Social Psychology」に発表された研究は、金持ちと貧乏人のように、「上と比べること」はしばしばシャーデンフロイデを生むことを示している。しかし最近では、社会的地位が同等の人の間でも、シャーデンフロイデを感じることが増えてきている。

 英オックスフォード大学の研究者ピーター・ターチン氏は、雑誌「The Atlantic」6月号の記事で、「社会が大富豪の超高学歴人間を量産しすぎる一方、彼らの野心を満たすだけのエリート職が十分にない」とき、「エリートの過剰生産」が生まれると指摘している。

 モンティグリオ氏も同意し、今や高度人材の雇用市場は、かつて経験したことがないほど競争が激しくなっていると語る。そうすると、同僚が出世を逃したことをひそかに喜ぶ人も増える。自分に昇進のチャンスが回ってくる確率が高まるからだ。

 ちなみに、エリートの過剰生産は、長い人類の歴史のなかでいくつかの社会が崩壊した要因の1つであり、それが今また米国で起こっているとターチン氏は指摘している。

続く

以下ソース
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/072700392/

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